横浜地方裁判所 昭和32年(わ)1712号 判決 1958年3月27日
被告人 黄金成
主文
被告人を懲役一年に処する。
未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。
但し三年間右刑の執行を猶予する。
右猶予期間中被告人を保護観察に付する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は昭和三十二年一月四日午後七時頃川崎市浜町四丁目二十七番地新田耕作こと田耕作方において真実売買斡旋の意思も代金支払の意思もないのに拘らず同人に対し初荷を出してもらえないですか、東京の本所の人から頼まれているのだが鉄のインゴット、針金、ベアリング、パイプをトン当り五万五千円で買いたいと言つています、電話で連絡してあるので品物だけ運べばいいのです、代金は品物を売つたらすぐ持つてきますと虚構の事実を申向け同人をしてその旨誤信させ因て翌五日午前七時頃同所において同人より鉄(インゴット)一〇一〇キログラム等古鉄類四点(価格七万四千八百十円相当)の交付を受けて之を騙取したものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の所為は刑法第二四六条第一項に当るのでその刑期内で懲役一年に処し同法第二一条により未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。尚職権により取寄せた被告人に対する昭和三十二年(ろ)第五三号窃盗未遂事件の記録及び右事件に対する松戸簡易裁判所の判決謄本によれば被告人は昭和三十二年四月二十八日午後五時五十分頃松戸市上本郷松戸競輪場表門前所在の自転車預所に於て同所保管中の石原周一管理に係るゼブラ号新品自転車一台(時価一万八千円相当)を窃取すべく同自転車のハンドル及びサドルに手をかけスタンドを外そうとしているところを同所監視人加藤実に現行犯人として逮捕され窃盗の目的を遂げなかつたものとして昭和三十二年五月九日松戸区検察庁より起訴され審理の結果同年六月二十四日松戸簡易裁判所で懲役十月、三年間執行猶予右期間中保護観察に付する旨の判決の言渡を受け右判決が同年七月九日確定した事実が認められるので当裁判所に起訴された本件詐欺の公訴事実に係る犯罪は前記公訴事実の余罪に該当するわけである。従て之が前記公訴事実と併合されて同時に審理されていたら前判決と同様執行猶予に値するかどうかを考えて見るに本件については被害者新田耕作と被告人の妻平田利江との間に既に示談が成立していること、被告人も改悛し極力残額の弁償に努力することを誓つていること及び被告人には前科がない等諸般の情状を考慮し余罪である本件についても執行猶予にするのを相当と考える。然して初度目の判決に保護観察付の執行猶予が付されている場合にその余罪である本件公訴事実の判決に執行猶予を付する場合には前判決と同様執行猶予に保護観察を付するのが相当且適法と考えるので刑法第二五条第一項第二五条ノ二第一項前段により三年間右刑の執行を猶予し右期間中被告人を保護観察に付する。
訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 福島昇)